ゴムのおもしろ技術講座

ゴムのおもしろ技術講座(第2回)

ゴムの耐溶剤性 ~ゴムと溶剤は相性が良い?悪い?~

本技術講座の第2回目は相性のお話です。

相性というと、この人とは仲が良いけどあの人とはあんまり......といった人間関係を想像してしまいますが、

実はゴムと溶剤の間にも相性が存在します。


1.ゴムと溶剤の相性

皆さんご存知のガソリンは、代表的な溶剤のひとつと言えます。

冒頭で

「ゴムと溶剤の間にも相性が有る」

と書いたのですが、

ガソリン

EPDMというゴムと相性が良く

NBRというゴムと相性が悪い

と言うことが知られています。

 

判りやすいように逆の例をあげてみると、

メチルエチルケトンという溶剤は、

EPDMとは相性が悪く

NBRとは相性が良い

と言うことが知られています。

(表1)例:ゴムと各溶剤の相性

溶剤/ゴム材質

EPDM

NBR

ガソリン

相性が良い

相性が悪い

メチルエチルケトン

相性が悪い

相性が良い


2.ゴムと溶剤の相性が良いとどうなるの?

これはゴムの「膨潤」に深く関わってきます。

ゴムと溶剤の相性が良いとゴムはどんどん溶剤と馴染み、ゴム自身に溶剤を吸収して大きく膨潤します。

しかし、ゴムと溶剤の相性が悪いとゴムは溶剤となかなか馴染まないために殆ど膨潤しません。

つまり、(表1)は以下(表2)の通りに書き換えることができます。

(表2)例:ゴムと各溶剤との膨潤の関係

溶剤/ゴム材質

EPDM

NBR

ガソリン

∩ 膨潤しやすい

― 膨潤しにくい

メチルエチルケトン

― 膨潤しにくい

∩ 膨潤しやすい

また、EPDM・NBRどちらのゴムに対しても相性が良い溶剤があります。

 

その一つが「トルエン」です。

トルエンはEPDM・NBRの両方と相性が良いので、どちらのゴムでも膨潤しやすくなります。

(表3)ゴムとトルエンとの膨潤の関係

溶剤/ゴム材質

EPDM

NBR

トルエン

∩ 膨潤しやすい

∩ 膨潤しやすい


EPDMのゴムをガソリンに浸漬(1時間)

(直径約30mmのゴムが1.2~1.3倍に膨潤)

EPDMのゴムをメチルエチルケトンに浸漬(1時間)

(ほぼ膨潤していない)


3.SP値

これまでゴムと溶剤の相性について説明してきましたが、

この相性を計る指標の一つに

SP値(Solubility Parameter:溶解度パラメータ)

というものがあります。

 

溶剤やゴム種別それぞれの物質が固有のSP値を持っており、

一般的にはSP値が近い物質同士は相性が良く、SP値が大きく違う物質だと相性が悪いと言われています。

 

つまり、

ゴムと溶剤の相性を調べるときはそれぞれのSP値を比べると良い

ということになります。

身近な例として

「水」と「油」SP値の差が極端に大きく(※)なっています。

これにより水と油は

相性が悪い=馴染みにくい/混ざりにくい

と言えます。

※水のSP値 : 47.9、ガソリンのSP値 : 14.3 (単位 : MPa^(1/2))


4.膨潤しにくいゴム材質を選択するには

前述したSP値を調べることは有効な手段の一つですが、溶剤や油には混合溶剤や混合油などといった

" SP値の異なるものが混ざっている場合"

もあるのでゴムを選択する際には注意が必要です。

(どの溶剤にもほぼ膨潤しない最強のゴムもありますが......)

トルエンを使用する用途は、前述の通りほぼすべてのゴムと相性が良いので、

ゴムにとっては厳しい条件ですが、

金陽社の材質「KPラバー」や「キンヨーブラウン」が問題を解決してくれるでしょう。

 

KINYOの技術

KPラバー

キンヨーブラウン

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5.最後に

少し難しい話が続いてしまったので、

私たちの身近にあるSP値を応用している例を二つほど紹介してみます。

 

(1)油性マジックの汚れ落とし

 「油性マジック」は、文字通り油の成分が入っております。

 つまり、水では落とせません。

 では、落とすにはどうしたらよいのでしょうか。

 ............

 ......

 それは相性の良い油由来のものを使って馴染ませて拭き取ればいいのです。

 

(2)メイク落とし

 ファンデーションや口紅等、メイクアップ化粧品にも様々な種類がありますが、

 一般的に販売されているものは油由来の成分が多く使用されています。

 それに合わせてメイク落としもSP値の近い油由来の成分が入っているので、

 水やお湯ではなかなか落ちない化粧品でも簡単に落とすことができるのです。

 

 「ゴシゴシ洗わずにメイク落としを十分に肌になじませてから優しく化粧を落とす

 

 というのは物理的に除去するのではなく、

 メイクとメイク落としを馴染ませた方が落ちやすく肌に優しいからなのです。

 

それでは、また次回。

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